使徒言行録8:4-25
ステファノの殉教の死のあと、エルサレムの教会は大迫害を経験し、使徒を残して すべてがエルサレムから離散することになりました。しかし、離散していった使徒た ちは、それぞれ悲しみと絶望と恐れに閉じこもったのではなく、かえって行く先々で キリストの福音を大胆に宣べ伝えたので、福音は一挙にサマリアとユダヤの全土に広 がって行きました。 この散らされていった人々の一人、ステファノと共に執事に選ばれていたフィリポ は、当然のようにそこへ下っていって、福音を伝えています。そして、サマリアの人 々も、非常に熱心に耳を傾け、信じて、男も女もバプテスマを受けています。ここで 最も興味深い人物として登場するのが魔術師シモンです。あのクリスマス物語に登場 する東の博士と同じ職業、マゴスです。占星、医療、祭祀について深い知識と技術を もっていた人々の伝統を継ぐ人で、「魔術を行ってサマリアの人々を驚かせ、偉大な 人物と自称していた」とシモン。なんと、この人が福音を聞いて受け入れ、主イエス の名による洗礼を受けたのです。自分の偉大さの限界を知って、罪の赦しを得させ、 神に立ち返って生きることを促す言葉に心を惹かれたのでしょうか。キリストの生と 死を知ることによって強く迫る神の愛に促されたのでしょうか、それとも表面的にみ んなに従っただけなのか、それはわかりません。キリストと共に死に、キリストと共 に復活する希望に生きるものとなったのです。しかし、ペトロとヨハネが下ってきて、 洗礼を受けた人々のために手をおいて祈ったとき、聖霊が一人一人に下って、心満た され神を賛美しているのを見たとき、シモンは最も衝撃を受けました。自分もそのよ うになりたい。千ある願いに衝き動かされたのです。しかし、彼の行動は軽薄です。 「わたしが手を置けばだれでも聖霊が受けられるように、わたしにもその力を授けて ください」と金を差し出したというのです。聖霊の賜物を金で買えるものと考え、そ のための投資を惜しまない・・・。「お前の心は神の前に正しくない」とペテロはシ モンを叱責していますが、この言葉は、わたしたちの胸にも飛び込んできます。神秘 のからくり、人々を驚かす力の秘密は技術にあると信じている近代人の心は、愛も、 信仰も、希望もシモンと同じように金を差し出すことによってある程度手にすること が出来ると信じ込んでいるところがあります。キリストによって真の他者に出会うこ と、ひたすら恵みによって与えられるものによって生きることがなければ、「神の賜 物を金で手に入れられると思っているのか。そのような金はお前の存在もろともに消 え失せよ」とシモンと共にしかられることになります。