ルツ記1:18-22 コリントの信徒への手紙一15:12-19
「これはナオミではありませんか」 「わたしをナオミ(快い)なんて呼ばないで。マラ(苦み)と呼んで。全能者がわた しにそれははひどく辛くあたったのよ。出て行くときは満たされていたのに、主がわ たしを空っぽにしたの。主が、わたしに暴力をふるって、わたしに悪いことをしたの。」 ナオミとルツがモアブの野からベツレヘムに帰ってくるとベツレヘム中が沸きたち ナオミに言葉をかけた時に、ナオミが返した言葉は、主なる神に対してはげしい怒り をぶつける言葉、恐ろしい冒とくの言葉に満ちています。それはまた同時に、自分の 人生全体を消し去ってしまいたい、という思いに衝き動かされていることがわかりま す。「わたしが生まれた日は消え失せよ」と叫んだヨブに通じる苦悩です。ナオミは この言葉を口にする時、泣きながらであったか、それとも、なかば笑いながらであっ たか、どちらなのでしょう。人は、このような言葉を語る時、どのような表情をする ものなのか、どちらがリアリティーがあるか、自分の胸に問うてみると、ナオミの魂 をおそっている空虚感が身近になってきます。アブラハムの妻サラの笑いが思い起こ されます。 ナオミは自分の人生をかくも惨めなものにした原因を、自分のせい、人のせい、社 会や時代のせいにしないで、何よりも全能なる神のせいにしています。神は苦い、神 はからっぽにした、神が暴力をふるい、神が悪を行う。彼女の口を衝いて出てくる言 葉に対して、驚くべきことに、ベツレヘムの人たちは、そして、聖書は一言も制止す る言葉を語りません。全能なる主なる神ご自身も、このような冒?の言葉に対して天 からの火を送ってその口を撃たれません。それを聞いて、深く共感しているかのよう です。 ナオミがこの嘆きを吐き出している時、全能者なる主なる神はどこにおられるので しょう。高い天にいまして沈黙しておられるのか。いや、ナオミのすぐ傍らにいるモ アブ人の嫁ルツ、「あなたの民をわたしの民とし、あなたの神をわたしの神とします、 あなたの亡くなる所でわたしも死に、そこに葬られたいのです」と語って一緒にベツ レヘムに帰ってきたルツの歩みの中で、すでに働きを始めています。ナオミはまだ目 と耳が開かれていません。
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