10月6日
1996年10月6日

「主の名を呼びはじめた」

創世記4章17−26


 カインとアベルの有名な事件に続いて、二つの系図がでてきます。カインの子孫

の7代に渉る系図と、アダムから3人目の子どもセトの系図です。系図、これは人

間の生き様を一人の一生だけでなく、何代にもわたって見るのですから、人間の本

質がなんであるかを鮮やかに描き出すところがあります。

 地の上をさまよい、放浪する物となったカインの、子孫の7代に渉る歩みはどの

ようであったか。それは意外にも、町を建て、家畜を飼い、天幕に住み、青銅や鉄

で様々な道具をつくる物となり、さらには、ユバルにいたっては「竪琴や笛を奏で

るすべての者の先祖になった」といわれるように、まさに文化の発展建設に貢献す

る者の家系です。ここには、確かに、一つの豊かになっていく進歩の過程がありま

す。しかし、カインの系譜を貫く精神を雄弁に物語っているのは、やはりレメクで

しょう。彼は二人の(!)妻アダとツィラに向かってこのように歌うのです。

 「アダとツィラよわが声を聞け。

  レメクの妻たちよ、わが言葉に耳を傾けよ。

  わたしは傷の報いに男を殺し、

  打ち傷の報いに若者を殺す。

  カインのための復讐が七倍なら、

  レメクのためには七十七倍」

 これは古い戦闘歌、旧約聖書の中の歌でも最古のものといわれるものですが、何

とも気味の悪い、荒々しい、傲慢な、粗野な精神があらわされています。おびえる

妻たちを前に力みかえって自分の強さを誇示しているさま、そしてその背後に、お

どおどと傷つけられることを恐れ、不安にさいなまれている精神をうかがうことが

できます。19−20世紀の世界の「発展」といわれる歴史の内実をえぐりだして

いるかのように。

 このカインの系図とは別にもう一つの流れがあって、再びアダムはつまを知って

セトが生まれ、セトからエノシュが生まれて、「この時代から主の名を呼び始めた」

と大変興味深い言葉が記されています。カインの裔の発展のただなかで、まさに深

き淵より、主の名を呼ぶことが始まっているのです。七十七倍の復讐を誓う者がい

るすさみきった深淵のこの世で、七を七十七倍赦せと語る者の声を聞く者が生じて

いるのです。わたしたちが礼拝し、主の名を呼ぶのは、まさにこのような状況であ

ることを教えられます。

秋山牧師の説教集インデックスへ戻る

上尾合同教会のホ−ムペ−ジへ戻る