創世記4章17−26
カインとアベルの有名な事件に続いて、二つの系図がでてきます。カインの子孫 の7代に渉る系図と、アダムから3人目の子どもセトの系図です。系図、これは人 間の生き様を一人の一生だけでなく、何代にもわたって見るのですから、人間の本 質がなんであるかを鮮やかに描き出すところがあります。 地の上をさまよい、放浪する物となったカインの、子孫の7代に渉る歩みはどの ようであったか。それは意外にも、町を建て、家畜を飼い、天幕に住み、青銅や鉄 で様々な道具をつくる物となり、さらには、ユバルにいたっては「竪琴や笛を奏で るすべての者の先祖になった」といわれるように、まさに文化の発展建設に貢献す る者の家系です。ここには、確かに、一つの豊かになっていく進歩の過程がありま す。しかし、カインの系譜を貫く精神を雄弁に物語っているのは、やはりレメクで しょう。彼は二人の(!)妻アダとツィラに向かってこのように歌うのです。 「アダとツィラよわが声を聞け。 レメクの妻たちよ、わが言葉に耳を傾けよ。 わたしは傷の報いに男を殺し、 打ち傷の報いに若者を殺す。 カインのための復讐が七倍なら、 レメクのためには七十七倍」 これは古い戦闘歌、旧約聖書の中の歌でも最古のものといわれるものですが、何 とも気味の悪い、荒々しい、傲慢な、粗野な精神があらわされています。おびえる 妻たちを前に力みかえって自分の強さを誇示しているさま、そしてその背後に、お どおどと傷つけられることを恐れ、不安にさいなまれている精神をうかがうことが できます。19−20世紀の世界の「発展」といわれる歴史の内実をえぐりだして いるかのように。 このカインの系図とは別にもう一つの流れがあって、再びアダムはつまを知って セトが生まれ、セトからエノシュが生まれて、「この時代から主の名を呼び始めた」 と大変興味深い言葉が記されています。カインの裔の発展のただなかで、まさに深 き淵より、主の名を呼ぶことが始まっているのです。七十七倍の復讐を誓う者がい るすさみきった深淵のこの世で、七を七十七倍赦せと語る者の声を聞く者が生じて いるのです。わたしたちが礼拝し、主の名を呼ぶのは、まさにこのような状況であ ることを教えられます。秋山牧師の説教集インデックスへ戻る