ダニエル書 11:2-11:17 ルカによる福音書 21:7-19
ダニエル書11章は、天使ガブリエルが幻の中でダニエルに出会い、「お前の民に 将来起こるであろうことを知らせるに来た」という言葉と共に、主として北の王と南 の王の戦いの歴史を伝えています。ここで告げられる内容は、「勇壮な王」と称され るアレキサンダー大王の死後、その武将たちによって分割された国、特に南の国の王 と称されるプトレマイオス朝のエジプトと北の国の王と称されるセレウコス朝のシリ アの両国の覇権をめぐる攻防のことで、将来のことではなく、BC4世紀〜2世紀の パレスティナを挟んだ両大国の歴史です。実に正確にその間の歴史が記されているの に驚かされます。「南の王となった者は強くなるが、将軍の一人が王をしのぐ権力を 取り大いに支配する」と記されているのは、プトレマイオスの部下であった将軍セレ ウコス・アンティゴノスの勢力が強くなり、一時は北の王の領土の大半を支配するほ どで南の王も北の王も共にその位を追われる事態になったことを示しています。また、 6節の、「何年か後、二国は和睦し、南の王の娘は北の王に嫁ぎ、両国の友好を図る。 だが、彼女は十分な支持を得ず・・・」というのは、プトレマイオス2世の時、王女 ベルニケを北の王アンティオコス2世に嫁がせたことを示しています。先妻のラオデ ィキを離縁したことで、後にラオディキの陰謀により、彼女自身も生まれた子どもも、 その夫も殺されてしまうという事態になりました。このように一つ一つかなり克明に 両国の覇権をめぐる歴史が記されているのです。 わたしたちがこれを読む時、過去の外国の歴史を知ること以上に何かを学ぶことが 出来るか、これは難問です。三つの点に目を留めたいと思います。1.ここには具体 的・現実的な歴史が語られていますが、南の王、北の王と暗号化されていることによ って、どの時代にも、どの国にも起こる出来事として読むことが出来ます。2.その 両国の必死の攻防の歴史を描く筆致は全く感情がなく乾いています。天の高みから眺 めた人間の愚かな戦いの様相です。そのように歴史を見ています。3.ここで繰り広 げられた北の王と南の王の攻防によって、神の民はその都度、蹂躙されますが、その 交流によって、主イエスの福音が、またパウロの伝道が言語の垣根を超えて広がって いく素地を形成しているのです。
秋山牧師の説教集インデックスへ戻る