エステル記 5:1-14 ; ルカによる福音書 14:15-24
ユダヤ人絶滅の危機にあたって、「この時のためにこそあなたは王妃の位に達し たのではないか」との促しを受けて、立ちあがったエステル。三日三晩の断食をし て決意を固め「王妃の衣装をつけ、王の中庭に入り・・・」と決死の行為に出ます。 もし、王が王笏を彼女に差し出さなかったら、ただちに死刑となります。しかし事 態はあっけなく、「王は庭に立っている王妃エステルを見て、満悦の面持ちで手に した金の王笏を差し伸べた」だけでなく、「願いとあれば、国の半分なりともあげ よう」と、王の好意が示されることになりました。そこから、エステルの周到な策 略が展開します。まず、その夜に王を宿敵ハマンと共に酒宴に招待し、一日目は何 も要求しません。「わたしは酒宴を準備いたしますから、どうぞハマンと一緒にお 出ましください。明日、仰せの通りわたしの願いを申し上げます」と。物語の進展 は実に悠長です。 旧約外典にギリシャ語のエステル記があり、ヘブライ語原典のエステル記に大幅 な拡張を加えていますが、特に、ユダヤ人絶滅の命令が下されて、モルデカイが 「この時のためにこそ」とエステルを促し、彼女が王に嘆願するにいたるまでの間 に、長いモルデカイの祈りとエステルの祈りが加えられ、エステルの決意がさらに ドラマティックに描かれています。モルデカイの祈りは、どうして彼がハマンにひ れ伏さなかったかの理由が次のように弁明されています。「わたしがひれ伏さなか ったのは、節度を弁えなかったからではなく、おごり高ぶっていたからでもなく、 野心を抱いたからでもないことを、主よ、あなたはごぞんじです。わたしがひれ伏 さなかったのは、神の栄光の上に人の栄光を置かないためでした。わたしは主であ るあなたのほか、何人にもひれ伏すことはしません」と。また、エステルの祈りは、 「死の苦悩に襲われて、主に寄りすがった祈り」として次のように祈られます。『主 よ、わたしたちの王よ、あなたは唯一の主なるお方、あなたのほかに助けをもたな いただ独りでいるわたしを助けて下さい』と呼びかけて、どうしてこのような災難 がユダヤ人にふりかかって来たかの原因について、「わたしたちが敵の神々をたた えたからです」と自らの罪を告白し、この罪から解放されるように祈っています。 確かに、「この時」を自分の問題として受け止め、決死の行動に移るためには、こ のような祈りがなければなりません。
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