コヘレトの言葉 4:7-12 ; テサロニケの信徒への手紙一 3:6-10
「ひとりよりもふたりが良い。共に労苦すれば、その報いは良い。倒れれば、ひと りがその友を助け起こす。倒れても起こしてくれる友のない人は不幸だ。」 コヘレトの言葉には「労苦」と言う言葉が旧約聖書の中で最も多く出てきます。 働くこと、汗を流し、労苦をすることの意味について、この書ほど深い関心を示し ている書はありません。コヘレトの労苦に対する見解は、「太陽の下で人は労苦す るが、すべての労苦も何になろう」と、労苦することの空しさをつぶやくことが多 いのですが、ここに記されている言葉は少し趣きが違います。同じ労苦するにして も、誰かのために労苦すること、誰かと共に労苦することの益と幸いを認めていま す。コヘレトには珍しく人生を生きる肯定的・積極的な生き方が示されているので す。その反対に、「際限もなく労苦し、彼の目には富も飽くことがない」といった 生き方には批判的です。労苦の結果、富を得たとしても、それで満足することはな く、富を得れば得るほど人は孤独になり、生活は貧しくなるという、現代のわたし たちの中に見られる事態を深く見通しています。誰のために労苦するのか、誰と共 に労苦するのか、どのように自分の魂を豊かにするのかの視点を持たない労苦は、 「これまた空しく、不幸なことだ」と断じます。「仕事人間」、「エコノミック・ アニマル」と称される多くの日本人に対する警告です。ここから、「ひとりよりも ふたりが良い。・・・倒れればひとりがその友を助け起こす。・・・ふたりで寝れ ば暖かい。・・・ひとりが攻められれば、ふたりでこれに対する・・・」と、とも に生きる生き方の効用を格言のようにして並べていますが、ここで云われているの は、労苦することと「生活の質」との関係を考えよ、との促しと考えるべきでしょ う。 「ひとりよりもふたりが良い」という考えは、わたしたちの生活の質を良くすると いう実利的な効用だけでなく、聖書全体を通じて語られている神の創造の秩序に適 う基本の精神でもあります。「人が一人でいるのはよくない」と見て、神が相応し い助け手としてすべての生き物を造られ、また人のあばら骨から女を造られたこと、 何よりも、神ご自身が三位一体の神として、父と子と聖霊の交わりにおいて、わた したちの創造と救済のために生きて働かれることと関わっています。
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