イザヤ書 7:10-16 ; マタイによる福音書 1:18-25
マタイによる福音書は、クリスマスの使信をヨセフの系図から説き起こし、それ から、ヨセフにいいなづけのマリアが、聖霊によって身ごもったことを知らされる というところからはじめています。ヨセフが主役なのです。 『母マリアはヨセフ と婚約していたが、二人が一緒になる前に、聖霊によって身ごもっていることが明 らかになった。』ヨセフの驚きと戸惑い、疑い、怒り、混乱は察するにあまりがあ ります。ヨセフという一人の男の人生において直面した危機、その危機にあってヨ セフが経験し決断したことは、人間の原体験とし深く人類の歴史に刻まれています。 「夫ヨセフは正しい人であったので、マリアのことは表ざたにするのを望まず、ひ そかに縁を切ろうと決心した」(19節)。ヨセフの決断は、マリアを自分の婚約 者という立場にしないこと、事柄を自分とかかわりのないことと切り離して、「賢 い常識的な、正しい」決断によって自分の身を守ろうとします。「かかわらなけれ ばよい」と。しかし、神さまはわたしたちを『かかわり』に引き込み、その御業を 成し遂げられます。 ここで新たな決断を迫る天からの介入が起こります。主の天使は「ダビデの子ヨ セフ」と呼んでイスラエルの民が神の前で担っている特別な歴史と使命に目覚めさ せその使命を担わせるのです。『恐れるな、ヨセフ』この天地を轟かす主の使いの 声が、ヨセフを圧倒し、ヨセフの人間的な、常識的な考えを根底から覆し、自分の 思いを捨て、神の計画に身を任せ、主の御用のために生きる人に変えています。 『恐れるな』、このメッセージは恐怖におののく者の心を鎮める慰めの言葉という より、主なる神のご支配のもとに人間の心を立ち返らせる、覚醒を促す言葉です。 『神は我らと共にいます・インマヌエル』の現実へと立ち返らせる言葉です。 『恐れるな、ヨセフ』神はわれわれと共におられる。聖霊のみ業を受け入れ、従え。 ヨセフは主のみ声に従った正しい人として歩み始めています。ヨセフは道を閉ざす 働きから変えられて、道を開く人として用いられたのです。一人の人の神の御心に 沿う決断が、クリスマスを実現させるために大きな働きをしたことを示して、わた したちにも『恐れるな』とのみ声が確かに響いてくることを証ししています。
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