ルカによる福音書2:1-21
天使が「聖霊があなたに降り、いと高き方の力があなたを包む。だから生まれる 子は聖なる者、神の子と呼ばれる」とマリアに告げた子どもの誕生は、誰もめった に経験しないほどの貧しさと危うい環境での誕生であった、と伝えています。コソ ボから追い出されたアルバニア系住民の難民キャンプで生まれた子どもと同じよう な境遇で神の御子は生まれること、「あなた方のための救い主」であることのしる しは「布にくるまって飼い葉桶に寝ている」ことである以外のものではないと。こ れによって、神は何をわたしたちに語ろうとしておられるのでしょうか。わたした ちが主イエス・キリストによって生きた唯一の神と出会うのは、この大きな問いに 向かい合うことによってです。 周辺的なことに目を留めてみましょう。主イエスの生まれたのは皇帝アウグスト ゥスの治下であったとルカは伝えて、主の誕生が世界の歴史のなかでどの位置にあ るかを明らかにしています。このローマ皇帝アウグストゥスは、帝国の東半分に権 威をふるったアントニウスとクレオパトラの連合軍をアクテイウムの海戦によって 滅ぼしたアクタヴィアヌスその人です。長い間の戦乱から解放し帝国全土に平和を もたらした人、そしてローマ皇帝の中ではじめて自らを「神の子」と称することを 許した人物です。軍事力と経済力、政治的な力量によって現実的・実際的な救いと 平和をもたらしました。「いと高き方の子」イエスは、この皇帝の支配する時代に 属領ユダヤの住民登録をせよとの命令によって権力に翻弄され、「飼い葉桶の中に 寝ている乳飲み子」となっています。不思議なことに、いま世界の歴史はアウグス トゥスによってではなく、この飼い葉桶に寝かせてある乳飲み子によって、BC( キリスト以前)とAD(主の年)と歴史の位置が決められています。 この誕生物語の中で天使が果たしている役割はどうでしょう。この、あってなき がごとき天使が大活躍するのです。もし天使がマリアに告げなかったら、もし天使 が羊飼いに救い主のしるしを教えなかったら、主イエスの誕生物語は成立しません。 また、天使が大きな光でめぐり照らし、大きな喜びを告げていることが、この世の 栄光とかけ離れて、現実の世界の中ではどれほど小さく貧しいものであるか、この コントラストを見なければありふれた話です。永遠の神秘を解き明かす天使は、こ の世界的な出来事を最初に伝えるものとして羊飼いを選び、救い主のしるしが「飼 い葉桶に寝かせてある乳飲み子」であることを教えたのでした。主のあわれみがど れほど身近に、わたしたちの現実に近づいているかを教えているのです。